人は火とともに暮らしてきた
大地にも水にも草木にも…。すべてのものに神様が宿っていると信じている、アイヌの人々。もちろん、火にも神様が宿っており、火の神はとても位の高い神として崇められています。ですから、アイヌの人々は今でも、祭事や儀式では必ず阿寒湖から聖なる火を迎え、火をシンボルとして執り行っています。
アイヌの人々は火の神様を敬ってきた。
アイヌの人々が暮らしたチセ(アイヌの家)の中央には囲炉裏端があり、その熱は床や壁を伝わって、とても理にかなった暖房になっていたのだそうです。だから厳寒の冬でも子どもたちは凍えることなく成長できました。神様から賜った魚や動物の肉を調理する時も、火の神様は力を貸してくれましたし、照明としても役立ちました。だからアイヌ民族は、火を尊び、火に感謝することを忘れません。
ひとたびその心を忘れて扱いを誤ると、火の神様は怒り、火事という大惨事に至るのですから…。
ですから、アイヌの人々の儀式や祭事には必ずと言って良いほど、火が焚かれます。阿寒湖畔のアイヌの人々も阿寒湖から迎えた聖なる火を祭壇や、祭事の会場まで運んで執り行います。阿寒湖温泉アイヌコタン屋外ステージで開催されている「アイヌ古式舞踊」でも、ステージ上で生火が燃えています。こうした祭事やイベントで使われる燃料は、バイオディーゼル燃料(廃食油)を利用しており、カーボンニュートラルの概念上、CO2排出はゼロとカウントされます。
世界に日本に、火の伝統儀式は数々。
人類に火の文明がいつ起源したのかは不明とされていますが、南アフリカでは人類が使ったと思われる140年前の火の痕跡が発見されています。またギリシャ神話には、プロメテウスが神々のものであった火を人類に伝えたという逸話があります。イスラム圏のゾロアスター教も火を尊ぶ宗教として有名ですし、日本では、大文字焼きで知られる京都市の「五山送り火」や、各地に点在する「たいまつ祭り」や「火渡り」など、火を象徴とした宗教的行事は多く伝えられています。このことからも、人類の文明や宗教・哲学、伝統文化において、火は重要な存在であったと改めて気付きます。