常呂郡置戸町は網走管内の南西端に位置するちいさな町。
大雪山の裾野にあって森林資源に恵まれ、木材と木工芸品の町として知られています。
その置戸町の町はずれ。トドマツやシラカバの木々に囲まれて、「KINA」という名の木工房があります。
小川のせせらぎと野鳥のさえずりを聞きながら、工房主の片岡祐士さん(56歳)が木の器を作っていました。
「KINA」
片岡 祐士(ゆうじ)さん
工房「KINA」は片岡さんのお兄さんと一緒に運営されています。TEL:0157-53-2475
「何百年前という昔の職人さんの作品に触れると、不思議と波長が合う場合があります。自分がいつか生まれ変わって、過去の自分の作品に出会えたらいいな…。と、そんなことを思ったりしています」。
たくさんは作れない。
自分の思いを込めてじっくりと…。
カバのこぶを生かした〈ボウル〉や、やはりカバのこぶをとえんじゅを組み合わせた〈抹茶わん〉が並んでいます。このように木の美しさを最大限に引き出したシンプルな器もあれば、見えない部分に意外なからくりがひそむ食器類もあります。いずれも片岡さんらしい作品。たくさんを作ろうとせず、一つにじっくりと向き合うのです。
「だれに師事するでもなく、まったくゼロの状態で始めた仕事。木の性質や工芸の技術などは、試行錯誤を楽しみながらここまで来ました。自分で発見したり自分で答えを作り出せるから面白いんですね」と笑う片岡さん。もしかしたら、少年が夢中で工作をするような、そんな感覚なのかもしれません。
根っからの自由人だから自由にモノ作りを。
片岡さんは、大学を休学してアメリカを旅するような自由人。卒業後はデパートに就職しましたが面白さを感じられず、実家のある置戸町に帰郷して木のモノ作りに巡り会ったのが33歳のころ。「職人さんにあこがれがあったんです。私は今でも職人にはなりきれていないので、今でもあこがれています」。
こうして木工芸を始めた片岡さんですが、やはり生来の自由人。当時1980年代は、ちょうど置戸町が木工芸品とその製作者を育成する「オケクラフト」を立ち上げた時代でした。しかし、片岡さんは「オケクラフト」だけにとらわれない、自分独自の作風と製作スタイルを大切にしてきました。
自分の仕事に関わるすべての人を裏切らないよう。
「自分の感覚を信じて作ってみる。失敗しても発見があるし、表現する喜びを知る。これは自分に正直に、気持ちよくモノ作りをしてこそ感じられること。まぁ、わがままっていうことかな。(笑)」。
自称わがままな片岡さんですが、自分の仕事に関わるすべての人を決して裏切りません。たとえば、片岡さんの作品を愛用している人から修理を頼まれた場合には、無料で直して送り返したり…。「KINA」の作品たちには、正直さや気持ちよさの風合いがにじみ出ています。