1898年、初めてその存在を学会で発表され、「毬藻」(まりも)なる和名を与えられて以来、さまざまな研究が行われてきた「マリモ」。1952年には特別天然記念物に、1997年には環境省の「植物版レッドリスト」で絶滅危惧種にも指定されるなど、保護の重要性が訴えられています。日本人の多くがその存在を知り、長い間人々から愛され続けている植物「マリモ」の今と未来をマリモ博士と呼ばれている若菜勇さんにおしえていただきました。
大型で球状のマリモが群生するのは世界で唯一、阿寒湖だけ
私がマリモの研究職員(学芸員)として着任したのが今から22年前。その頃は、誰もがマリモを知っていても、科学的なデータが乏しく、生態についてはまだまだ解明されていませんでした。DNAの分析や生育状況の調査を進めていくうちに、マリモという生物は北半球に広く分布しているものの、球状でしかも20㎝、30㎝という大型になるものは、世界でただ一ヶ所、この阿寒湖にしか存在しないことが確認され、ようやく近年になって丸く美しい神秘の生き物「マリモ」のことが少しずつ解明されてきました。現在の阿寒湖では丸くなる始まりは見られず、大きなマリモが波によって壊されては大きくなるサイクルを繰り返しています。この他にも、湖底から湧き出すミネラルを含んだ地下水が生育を促すなど、マリモが育つためのさまざまな条件が阿寒湖に備わっていることが分かってきました。自然が紡ぎ出す様々な偶然が、阿寒湖のマリモを創っているのです。
阿寒湖畔エコミュージアムセンター内マリモ研究室にある阿寒湖のマリモ。
「マリモ」は北半球に分布する藻類の1種で、糸状で石に付着したり、
水中を漂って生息します。球状マリモの群生地は阿寒湖とアイスランドの
ミーバトン湖のみです。
マリモ、阿寒湖、阿寒の自然世界遺産登録への努力
現在、阿寒湖とマリモを世界自然遺産に登録しようという動きが高まっていますが、マリモの希少性を世界的に認知してもらういいチャンスだと思います。阿寒湖は、日本でも最も早くに指定された国立公園の一つです。原始の森、火山、湖沼、その多様性に満ちた自然こそが阿寒湖のマリモを育てているのです。世界自然遺産に登録されることによって阿寒の自然がしっかりと守られ、マリモにとって良い環境が維持されて行くことが、地元住民の願いでもあります。現在は、マリモをどうしたら残せるか、科学的な知見を積み重ね、関係者が知恵を出し合って、世界自然遺産に向けた準備に取り組んでいるところです世界自然遺産に登録されれば、文字通り世界から人が訪れるでしょう。マリモ、阿寒湖、阿寒の自然と文化を後世にしっかりとつなげていきたいですね。
チュウルイ島「マリモ展示観察センター」のマリモ。
阿寒湖のマリモは風波で揺れ動きながら光合成を行い、
最大で直径30㎝くらいに成長します。
マリモ学芸主幹学芸員 理学博士
若菜 勇(わかないさむ)さん
保護活動の次代を担う子どもたちと共に観察、研究
地元の阿寒湖畔や釧路市内、近隣町村の児童・学生がマリモについて学べるプログラムがあります。研究型のエコツアーとでもいいましょうか(笑)。例えば人工的につくった小さなマリモに電子チップを埋め込んで水槽で育てたり、湖に放流して成長の様子を観察することができるようになりました。マリモに関わることで、阿寒湖やその周辺の自然環境を学ぶきっかけになれればいいなと思います。そして、子どもたちの「面白い、楽しい」という感動を一過性ではなく、マリモの研究や保護活動に関われる仕組みを作ることで、継続的なマリモ保護が可能になるのではないでしょうか。小さくてきれいなマリモには、大きな未来が詰まっていると、私は思うのです。
マリモ研究室釧路市阿寒町阿寒湖温泉1-1-1
TEL 0154-67-4660