阿寒湖アイヌコタンの6人の作家が制作した彫刻。

イコロを訪れたなら、エントランスで少しだけ立ち止まってみましょう。そして6本の彫刻を見上げ、あなたの願いごとをそっとたくしてみませんか。その願いはきっと、遥かなるカムイのもとへと舞い上がる。

 

阿寒湖アイヌシアター〈イコロ〉のエントランスにそびえ立つ、6本の彫刻。これは阿寒湖アイヌコタンの彫刻家6名が、〈イコロ〉オープンに合わせて合作した作品です。トータル監修を行った床州生(とこ しゅうせい)さんに、作品の由来やエピソードをうかがいました。

 

1番手前の彫刻には、シャチとそれを追う舟が彫られ、1番奥の作品にはクマ神様の姿もあります。
「本来アイヌの世界では、クマや人間などを彫ると魂が宿ってしまうので、作品にしてはいけないと言われています。しかし祈りの儀式で、人間の言葉を神に伝える『パスイ(酒棒箆)』という道具だけは、クマ神様や人間が表現されてきました。そこで私は、この彫刻を『パスイ』に見立てることにしたのです」。

「パスイ」に見立てた作品。それは例を見ないことでしたが、仲間たちはその斬新なテーマを認めてくれました。そして昨年11月、6名が一丸となって制作を開始。大きな作品なだけに室内の制作場所がなく、建設中の〈イコロ〉横の空き地で彫刻刀を振るい続けました。

「寒くて大変でした。(笑) でも、普段はそれぞれの作風で商業作品を手掛けている作家たちと、皆で一緒に取り組む機会は貴重でした」。皆、このアイヌコタンでそれぞれの師につき、20年以上も切磋琢磨し合った作家仲間。中には40年来の幼なじみもいます。そうした仲間たちとのコラボレーションはとても楽しかったようです。たとえば、正面に向かって左側奥の作品。女のクマ神さまの片手に注目してみると…。なんとピースサインが! こんな遊びごころも楽しさの現れでしょうか。最後に床さんからのメッセージを紹介します。「カムイノミ(祈りの儀式)で神様に願い事を捧げる時、人間の言葉はパスイに伝わります。言葉が足りなくてもパスイがうまく補ってくれるので大丈夫。ですから、〈イコロ〉へ来たらぜひ、この彫刻に願い事をしてください。手で触れて心を寄せると、その思いはきっと神様へと届けられます」。

 

写真上:高さはそれぞれ5メートル、7メートル、10メートル。1番手前は海の物語。人間が舟でシャチの神様を追うとその先にクジラが…。2番目は魔除けのアイヌ文様。1番奥では男女のクマ神様が描かれています。

写真下:〈イコロ〉の彫刻を制作中の6名。11月から制作を開始し、50日ほどで完成しました。皆、40~50歳代の中堅彫刻家で、阿寒湖アイヌコタンの各民芸店で会うことができます。後列左から、森田薫さん(エポエポ)、渡辺澄夫さん(森の人)、志富康裕さん(オサルンベツコタン屋)、平間覚さん(マツネシリ民芸店)、前列右端・斉藤政輝さん(サンラマント)、前列・床州生さん(ユーカラ堂)。( )内はお店の名前。


トータル監修を行った床州生(とこ しゅうせい)さん(46歳)。
21歳から父親の床ヌブリさんに師事。
先人たちの偉業に敬意を払いながらも、新しいインスピレー
ションを吹き込む制作を行っています。
阿寒湖アイヌシアター〈イコロ〉
阿寒町阿寒湖温泉4丁目7-19 TEL:0154-67-2727