オホーツク海とサロマ湖に懐かれた北見市常呂(ところ)町は、「ホタテと遺跡とカーリングのまち」。穏やかな気候風土や、常呂川が運んだ栄養豊富な土壌に恵まれて、農業と漁業が営まれています。何でもよく実り、大きく甘い魚介類がとれる…。まさに北国の楽園。そんな常呂町で生まれ育ち、この町の75年間を知る、「常呂の生き字引」と呼ばれる人がいます。それは、常呂町で酒店を営む古川壽さん。家業に従事し始めたころから60年。まちのイベントやスポーツなど、あらゆる常呂町の事業に参加して盛り上げてきました。そうした日々のいしずえには、「人と人を繋いで、温かな町に」という思いがあふれていました。
常呂の海と大地が好きだから、
いろんなアイディアが生まれた。
「昔は常呂川がよくはんらんし、せっかく育てた畑が流されて…。常呂の先人たちは苦労をしたと思います。でも、苦労に耐えたおかげで、今、常呂の海も畑も滋養豊かになりました。大きな遺産でしょう。では、あとは何が必要か…。それは、人の和なんですね」。そう語る古川さん。その75歳とは思えない快活な口調と物腰は、周囲の人まで元気にしてしまいます。20数年前には、常呂の海水浴場で子どもたちを対象に水泳教室を行ったこともありました。地域の教諭たちと共に、海で泳ぎを教えるというユニークな発想。それは、常呂の海を愛する心が生んだ発想でしょう。
1980年以降、常呂町に根付いたカーリング。常呂の顔ともいえるカーリングの軌跡にも、やはり古川さんの足跡がありました。「カーリングの道具も何もないけれど、まちの仲間が集まって、やろうやろうと知恵を出し合って。仲間うちの好奇心と遊びから始まった事なのです」。カナダのほうで親しまれている、カーリングというゲームをやってみようかと1人が言いだし、小学校のスケートリンクでアルミのビール樽を滑らせてみたら楽しかった。そんな無邪気で気のいい仲間たちがいたからこそ、現在、カーリングのまち、常呂町があるのです。
世代を超えて人と人を結ぶ。
それが、年長者の使命だと思う。
常呂では、カーリングが小学2年から体育教科となっており、中学や高校のカーリング部の力量は相当なものだそう。子どもや学生のチームが数々あり、さらに一般のチームも40ほどあります。古川さんが所属する「オールドリバー2」というチームは70歳代が2名に40歳代が3名。ベテランの古川さんがいるチームだから強いのかと思ったら、「それがなかなか勝てない。毎年、初心者を入れるから」という答え。初心者を迎え入れ、ワンシーズンを過ごしてカーリングの輪に入れたら、また翌年、新たな初心者を迎える。こうして、人と輪を繋いできました。「また高校や大学のチームは元気で強い。若い者に負けたら悔しくてねぇ」と笑いながら、たくましく育った地域の若者とカーリングの輪を実感し、それをうれしく思うのが古川さんの本音なのです。
常呂町内では唯一古川商店でのみ販売されている大吟醸酒「常呂川」。栗山町の酒蔵が作った酒は芳醇でキレの良い味わい。ラベルデザインなどのプロデュースは古川さんの息子さんが行いました。ラベルには、「再び、常呂川を清流に戻さむと欲す」という、古川さんの息子さんの願いも書かれている。 30ml500円/720ml1,800円
古川 壽(ひさし)さん
漁業を行った後、25歳で家業の酒店を継承。常呂町の体育指導員、商工会の役員や社会福祉協議会の役員も歴任しています。