澄んだ支笏湖の希少性と凍らない水の不思議。

凍らないからこそ見られる景色があります。それが支笏湖の冬の魅力。

「冬も凍らないことが普通なので、あまり“もし凍ったら”と考えたことがないんです」と、支笏湖ビジターセンターに勤務する瀬戸静恵さん。通常、冬は風が強く湖も波が高いため、遊覧船も休航します。それでも「北国の湖は凍るもの」と思っている人は案外多く、「ワカサギ釣りはできますか?」という問い合わせの電話もかかってくるそう。でも「凍らないので氷上の釣りはできませんし、ワカサギも棲んでいません」。波があるので、草に付いた湖水の飛沫が凍ると、花が咲いたようにも見えます。最北の不凍湖である支笏湖。ではなぜ凍らないのでしょうか。「寒くなると次第に水温は下がっていきますが、支笏湖は大きくて深く、水量も豊富なため、全体の温度が一定に下がりきる前に、春が来るんですね」。ただし、過去に数回凍った年もあり、その時の様子はビジターセンター内に展示されている写真に残っていました。氷結した湖面の上を人が歩いている、希少な写真です。記録されている1977年と2001年は、ともに気温が低く寒い冬で、水温が下がったため。それ以前に支笏湖が凍ったのは、1953年のことです。偶然にもこれは「24年に1度」のサイクルで、「果たして2025年はいかに?」と、密かに地元関係者の注目を集めています。

 

湖水の循環のメカニズムから不凍湖になる理由がわかる。

ここで、湖の水温の垂直分布を、下の図で見てみましょう。北半球では、湖の位置する緯度が高いほど、また標高が高いほど水温も低くなります。湖水の温度を 決めるのは、四季の気温と日光の照射。春に表面の冷たい水が温められて4℃になると、比重が最大となって重くなり、下方へ向かいます。さらに春風の影響も 受けて対流が起こり、水全体がほぼ4℃になります。これが「春の循環」で、夏になるとさらに表面の水温は上がって行きます。一方、秋が深まると表層の水が 冷え、春同様、湖面近くと底層の水温に大差がなくなります。これが「秋の循環」で、上方の水ほど温度が低くなります。支笏湖のように夏の低層の温度が4℃ より高い場合、上から下がった水がすべて4℃になるまで循環は続きます。支笏湖ではその状態のまま春になるため、結氷しない不凍湖なのです。

 

写真1:支笏湖周辺の植物に、波と風で飛ばされた湖水が付いたまま凍った「飛沫氷」。まるで花が咲いたように美しい。不凍湖でしか見られない景色だ。 写真2:支笏湖ビジターセンターに展示されているパネルから、過去の結氷の際に徒歩で氷上を渡っている人々の記録写真。 写真3:同じく、結氷で船舶が立ち往生している希少な記録写真。 写真4:冬の湖畔に顔を見せたエゾ鹿。 写真5:表面の一部に薄氷が張った状態の、冬の支笏湖。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

湖面に波があると凍らないが、

ベタ凪の日が続くと薄く氷が張ることもある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自然公園財団 支笏湖支部 主任
瀬戸 静恵さん

江別市出身。

2003年より支笏湖ビジターセンターに勤務し、

四季折々の自然の魅力をガイドしている。

現在はアライグマの調査も担当。