秘湖・秘沼をめぐる

北海道には、原生林の奥深くに、また人里離れて静かに存在する湖沼がいくつもあります。時に来る者を拒み、時に包み込むように迎え、いくつもの美しい表情は魔法のように見る者の心を捉えます。私たち人間とは違う時間の流れを刻んでいるかのように悠久の水をたたえ、空を樹々を鳥たちを映す水面は、私たちの心のキャンバスにどんな絵を描いてくれるのでしょう。

 

点在するニセコの湖沼群のなかで最も美しいと言われる神仙沼。

神仙沼(共和町)

名称の由来は、ボーイスカウトの生みの親と言われる下田豊松氏がその美しさを「皆が神、仙人の住みたもう所」を表現したことから「神仙沼」と呼ばれるようになったと言われています。周囲は標高千メートルに近い場所にある高層湿原で、点在する湖沼群の中でも、最も大きく(周囲0.5km、最大水深は2m程)、そして最も神秘的で美しいと言われています。

神仙沼はその美しさを求めて訪れる人を迎え入れてくれる懐の深ささえ感じます。駐車場からの木道は、バリアフリーでだれもが気軽にトレッキングを楽しめるように整備されています。木道を進むこと20分。ダケカンバの森を抜けると視界が開け、神仙沼湿原が姿を現します。

周辺はチングルマをはじめとする高山植物、エゾカンゾウやワタスゲなどが咲き競い、「ニセコのお花畑」とも呼ばれています。また、神仙沼のシンボルとも言えるミツガシワが湖底から伸び、初夏には可憐な白い花が咲いて湿原を彩ります。小さな愛らしい花、生命を繋ぎ続ける植物たちの営みを、目をこらして見てみませんか?

神仙沼を目指すなら雪が溶けた6月がおすすめ、また秋の紅葉も見事でしょう。ニセコの空、湿原をわたり水面を揺らす風、ゆっくりと身を任せ、神仙沼を全身で感じてみましょう。しばしの時間、自然のささやきを聴いてみませんか?

 

問い合わせ/株式会社 ニセコリゾート観光協会  TEL/0136-44-2420

http://www.niseko-ta.jp/

取材協力・写真/ニセコリゾート観光協会

 

原生林に包まれた北海道三大秘湖のひとつ

オコタンペ湖(千歳市奥譚)

恵庭岳の噴火で流れ出した溶岩によってせき止められた湖で、周囲が約5km、最大水深は20mほど。名称は、アイヌ語の「オ・コタン・ウン・ぺ」(川下に村があるの意)に由来しています。その昔、この湖を水源とするオコタンペ川が支笏湖に注ぐ辺りに温泉があり、かつてアイヌの人々の小さな村があったと言われています。現在は、支笏洞爺国立公園の特別保護地区内にあるため観光地化されておらず、晴れた日はコバルトブルーの湖水が原生林に映え、秋には紅葉を鏡のような湖面に映します。その美しさ、静かなたたずまいはオンネトー、東雲湖とともに北海道三大秘湖に数えられています。オコタンペ湖には漁岳、小漁岳、恵庭岳から河川が流れ込んで扇状地を作っています。徐々に出来た扇状地ですが、オコタンペ湖ができた頃は、現在の面積よりおよそ3倍も大きかったのではないかと言われています。今この時間にも扇状地は堆積物で埋め立てられていて、いずれ遠い将来には無くなってしまうと考えられています。湖の姿を眺められるのは、展望台からのみ。しかも見ることができる夏場は樹木の葉枝が茂り、小さな湖がわずかに見えるだけ。エゾマツやトドマツの木々に守られているような孤高の湖を目に心に焼き付けてください。

 

取材協力・写真/一般財団法人 自然公園財団 支笏湖支部

問い合わせ/支笏湖ビジターセンター(千歳市支笏湖温泉番外地) TEL/0123-55-2404 【3月までは毎週火曜休館】

 

 

野生動物のゆりかご、植物の宝庫

チミケップ湖(津別町)

オホーツクの秘湖と言われている「チミケップ湖」。アイヌ語で「山の水が崖を破って流れ落ちる所」という意味があります。約1万年前に谷がせき止められてできた湖と考えられており、阿寒湖と共にヒメマスの原産地となっています。 湖の辺り一帯は、およそ2千ヘクタールもの風致地区に指定されています。自然のままに保存されている天然林は、エゾマツ、イチイなど北海道を代表する樹、カラマツ、エンジュなどの落葉樹、ニレやシラカバなどが豊かな森を作り、その多様性が40種余りの野鳥と動物たちの生命の営みを守っています。周囲が約7.5kmの湖の半分の湖岸をなぞるように野鳥観察舎、樹木園、キャンプ場、散策路が整備されています。森の息づかいを感じながら自然散策を楽しめるでしょう。散策道路はいくつかのコースがあり、見晴台からは眼下に静かに佇む森と湖を眺めることができます。また、湖の南岸の端から200mほど下流のチミケップ川では「鹿鳴の滝」が清々しい流れを聴かせてくれます。

 

取材協力・写真/津別町役場

問い合わせ/津別町観光協会 TEL/ 0152-76-2151


 

謎のオホーツク人とアイヌ民族、融合する自然と文化

濤沸湖(網走市)

濤沸湖は、海の作用で堆積した土砂により湖になっていった海跡湖で、海と川の両方の水が混じり合う汽水湖です。独特の自然はさまざまな生命をつむぎ出し、人の暮らしの営みの場ともなっていたようです。涛沸湖の近くからはアイヌの人々が暮らしたとされる遺跡が発見されています。また少し離れた網走市内では海洋民族と見られる「オホーツク人」が暮らした痕跡が貝塚として発見されました。オホーツクの海は豊かな恵みの海だったのでしょう。濤沸湖周辺には環境省や北海道が公表しているレッドリストにある動物が数多く生息しています。イトウ、ヒメマスなどの魚類、タンチョウやオジロワシ等の鳥類、それに植物や昆虫など。また涛沸湖で見られるオオワシ、オジロワシ、タンチョウなどは種の保存法により絶滅の恐れのある国内希少野生動植物89種(2013年6月現在)に指定されているのです。美しい景色、自然の豊かさを感じられるのは、貴重な動植物が湖を糧に懸命に生きているからでしょう。湖からの風はそう語りかけているのかも知れません。現在、濤沸湖ならではの魅力、恵みを次代に引き継いでいこうと漁業者や地域が一つになって濤沸湖の環境を守り続けるさまざまな取り組みが行われレいます。「ワイズユース」=「賢明な利用」の考えが脈々と受け継がれているのです。

 

取材協力・写真/濤沸湖水鳥・湿地センター

問い合わせ/涛沸湖水鳥・湿地センター(網走市字北浜203番地3地先) TEL/ 0152-46-2400 【月曜休館(祝日の場合は翌日)】