オホーツク暮らしびと その4本業の塩づくりに対する思いと道楽の舞台に対する思いは、ほぼ同じ

南川 保則さん

湧別町で「オホーツクの自然塩」を製造し、芝居小屋「湧楽座」を経営する
株式会社つらら代表取締役

南川 保則さん

連絡先:紋別郡湧別町栄町37-25
TEL:01586-5-3703

南川さんの実家は、大正の初めから続く老舗の味噌醸造の蔵元でした。工場の事務所入り口には、当時の蔵出し味噌の懐かしい莚(むしろ)にくるまれた風袋が展示されています。しかし、10年ほど前に、南川さんのお父さんの時代に、ついに製造に幕が引かれることに・・・。
そこで、南川さんは、沈思黙考の結果、オホーツクに豊富に資源として存在する塩の製造を思い立ちます。

我が子のように扱う掌にオホーツクの塩への愛情が感じられる

「100年も続くものづくりの灯を消してはいかん、と思っただけなんです。だから、計画的な事業プランがきちんとあった訳でもありません。ただ、塩の製造を思い立ってからは、大変な忙しさでしたね。塩づくりに関しては、まったくの素人でしたから、沖縄や九州、四国や瀬戸内など国内塩を製造している現地を見学。製造工程の習得が終わると、今度は同じオホーツクでも海水は採集する場所で成分が異なりますから、どこの海水を使うか、色々とテストをして、決めなければなりませんからね」と、当時を振り返ります。
 その結果、原料の海水はサロマ湖のものに決定したそうです。私たちは、台所や食卓で使用する塩は、単に塩分だけではなく、ミネラルなどの栄養素も含まれている方が美味しい塩になると思いがちですが、南川社長は「美味しい塩には、余分な成分が含まれていない方がいいのです。カルシュームたっぷりとかミネラル豊富なんて、とんでもない。塩は塩分が本分。第一、余分な成分を取り除く工程の方が時間もかかって大変なんです」と、一刀両断のコメント。
 その南川社長に、工場棟の塩製造プラントを見学させていただきました。見学前は海水を煮詰めて製造するだけに塩水で錆が浮いたような機械が並んでいるのを想像していたのですが、あにはからんやピッカピカの、まるでステンレス製の機械が並んでいるではありませんか。

これまでに製品化された商品

「ほとんどの製造工程の機械は、オール超合金製なんです。経費はかさみましたが、安心・安全の食を守るためには、衛生的かつ科学的にプラントを整備しなければならんのです」と、南川さんは自信の笑顔を見せます。現在、その甲斐あって、アイテム的には八品目を製品化。なにより、大手食品メーカーのカルビーなどからも大口注文契約も結ぶほどになりました。

 工場の敷地内の一角に、どこか昔の映画館を思わせる建物があります。昭和の一時代、湧別町民の娯楽を支えた実名の映画館を再現した芝居小屋だと言います。中に入ると、まさに一挙にタイムスリップ。一階と二階を合わせると約250席の桟敷席が用意され、各種の照明・音響設備から、上下の舞台袖、楽屋などまで揃った本格仕様で、ちょっとした市民文化会館のよう! 聞くと、なんと南川さんは、学生時代から役者を志し、あの小沢昭一劇団にも所属していたというではありませんか! 思わず過去形で表現しましたが、昨年末にも、小泉八雲の「耳なし法一」を独り語りで上演するなど、現在もバリバリの現役。「あくまでも、私の本業は塩づくり。その本業があっての道楽ですから、分はわきまえているつもりです。でも、本業も道楽も共通項は一つだけあります。それは、どちらも自分にできることはすべてやるという思いでしょうか」と言って微笑む南川さんの笑顔は、仕事も趣味も全力投球の結果がもたらす独特の輝きに満ちていました。